その感染対策、思い込みかも?―― 手洗い・うがい・抗生物質を見直す
2026.08.13
「手洗いとうがいをしていれば十分」「手袋をしていれば安心」「風邪には抗生物質が効く」。こうした思い込みは、感染対策の本質を見落とすことにつながります
感染症を防ぐには、何をどう組み合わせればよいのか。抗生物質を正しく使うには、何を知っておけばよいのか。洛和会音羽病院 感染防止対策室の感染管理認定看護師に身近な感染対策の考え方を聞きました。
インフルエンザ予防は「手洗いとうがいだけ」では不十分
インフルエンザの予防というと、手洗いやうがいを思い浮かべる人は多いでしょう。
手洗いは、感染対策として大切な基本です。外出後や食事前、トイレの後などに手を洗うことで、手に付いたウイルスや細菌を減らすことができます。
ただし、インフルエンザ予防は、手洗いとうがいだけで完結するものではありません。
インフルエンザは、咳やくしゃみなどによる飛沫をきっかけに広がることがあります。流行期には、手洗いに加えて、咳エチケット、適度な湿度の保持、十分な休養、バランスの取れた栄養、人混みを避けることなど、複数の対策を組み合わせることが大切です。
流行前のワクチン接種も、重症化を防ぐうえで大切な選択肢の一つです。
感染対策は、一つの方法に頼るのではなく、生活の中でできる対策を重ねることが基本になります。
インフルエンザ予防で意識したいこと
- 流行前のワクチン接種
- 外出後の手洗い
- 咳エチケット
- 適度な湿度を保つ
- 十分な休養と栄養
- 流行期は人混みを避ける
うがいは感染対策になる? 日本で身近な習慣を考える
うがいは、日本ではとても身近な感染対策の一つです。外から帰った後や、のどの違和感があるときに、習慣として行っている人も多いでしょう。
一方で、うがいは世界中で広く行われている感染対策というわけではありません。水道水の安全性や生活習慣の違いもあり、日本ほど一般的ではない地域もあります。
また、うがいで洗い流せる菌やウイルスは、主にうがいの数分前にのどについたものと考えられています。そのため、うがいだけで感染症を完全に防げるわけではありません。
ただし、うがいには、口の中やのどを洗浄し、細菌やほこりなどを粘液と一緒に取り除く働きがあるとされています。のどを適度に刺激して粘液の分泌や血行を促したり、のどの潤いを保って乾燥を防いだりすることにもつながります。
さらに、うがいを習慣にしている人は、自分ののどの調子に気付きやすい面があります。「少しのどが痛い」「乾燥している」と感じたときに、部屋を加湿する、マスクを着ける、早めに休む、必要に応じて受診するなど、次の予防行動につなげることができます。
うがいは「これだけで大丈夫」という対策ではありません。手洗い、咳エチケット、換気、休養などと組み合わせて、日常の感染対策の一つとして取り入れることが大切です。
うがいについて知っておきたいこと
- 日本では身近な感染対策の一つ
- 世界共通の感染対策とは限らない
- 洗い流せるのは、主に数分前に付いた菌やウイルス
- のどの洗浄や乾燥予防につながる
- のどの不調に気付くきっかけになる
感染症は過去のものではない
感染症は、過去の病気ではありません。
医療が進歩した現在でも、世界では感染症によって多くの命が失われています。肺炎などの下気道感染症、結核、新型コロナウイルス感染症など、感染症は今も社会全体で向き合うべき健康課題です。
抗生物質がなかった時代、人々は、成すすべがなかった疫病(感染症)に対して、祈るしかできませんでした。
薬師如来は病気平癒をつかさどる仏様であり、疫病(感染症)流行期には薬師如来に救いを求めました。
京都市内での疫病(感染症)流行時には、八坂神社の素戔嗚尊(すさのをのみこと)に祈りを捧げ、現代でも受け継がれている祇園祭の始まりとされています。
現在は、抗菌薬やワクチン、検査技術、感染対策の知識が発展しています。それでも、感染症への備えが不要になったわけではありません。
むしろ、今の時代だからこそ注意したい問題があります。それが薬剤耐性菌です。
薬剤耐性菌とは、抗菌薬が効きにくい菌のこと
薬剤耐性菌とは、抗菌薬が効きにくくなった、または効かなくなった細菌のことです。
抗菌薬は、細菌による感染症の治療に欠かせない薬です。しかし、必要のない場面で使われたり、適切でない使い方が続いたりすると、薬が効きにくい菌が生き残り、広がっていくことがあります。
薬剤耐性菌が増えると、本来なら治療できるはずの感染症に薬が効きにくくなり、治療が難しくなることがあります。これは病院だけの問題ではありません。地域で暮らす一人一人の薬の使い方にも関わる問題です。
特に高齢化が進む中では、薬剤耐性菌の影響を受けやすい人が増える可能性もあります。感染症を防ぐこと、抗菌薬を正しく使うことは、将来の医療を守ることにもつながります。
薬剤耐性菌を増やさないために
- 抗菌薬を自己判断で求めない
- 処方された薬は指示通りに使う
- 途中で勝手にやめない
- 残った薬を人に渡さない
- 風邪に抗菌薬が必要とは限らないことを知る
手袋をしていても、手洗いは必要
感染対策というと、手袋を着ければ安心だと思う人もいるかもしれません。
しかし、手袋は万能ではありません。手袋の表面には汚れや病原体が付く可能性があります。さらに、手袋を外すときに表面を素手で触ってしまうと、手に汚れが付くこともあります。
手袋を外すときは、片方の手袋の袖口をつかみ、手袋の裏表が逆になるように外します。次に、手袋を外した手を反対側の手袋の袖口に差し込み、同じように裏返して外します。最後に、必ず手指衛生を行います。
大切なのは、「手袋をしているから大丈夫」と考えないことです。手袋をしていても、外した後の手洗いや手指消毒は欠かせません。
感染対策は、知識として知っているだけでは十分ではありません。いざという場面で正しく行えるかどうかが重要です。手袋の着脱も、単なる作業ではなく、感染を広げないための技術の一つといえます。
風邪に抗生物質は効く?
「風邪を早く治したいから、抗生物質を飲みたい」と考える人もいます。
しかし、一般的な風邪の多くはウイルスが原因です。抗生物質、つまり抗菌薬は、細菌に対して効果を発揮する薬であり、ウイルスには効きません。
ウイルスと細菌は、大きさも構造も異なります。ウイルスは自分だけで増えることができず、人の細胞などに入り込んで増えます。一方、細菌は細胞を持ち、自分で増えることができます。
インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、麻疹、水ぼうそうなどはウイルスによる感染症です。一方で、細菌による肺炎や尿路感染症、中耳炎、蜂窩織炎などでは、抗菌薬が必要になる場合があります。
つまり、「熱がある」「のどが痛い」「咳が出る」からといって、必ず抗菌薬が必要とは限りません。症状だけでは、ウイルスによるものか、細菌によるものか判断が難しいこともあります。
もちろん、風邪のように見えても、細菌感染が関係している場合には抗菌薬が使われることがあります。大切なのは、自己判断で抗菌薬を求めたり、以前に残った薬を使ったりしないことです。
抗生物質について知っておきたいこと
- 抗生物質は細菌に効く薬
- ウイルスには効かない
- 風邪の多くはウイルスが原因
- 必要かどうかは医師が判断する
- 残った薬を自己判断で使わない
抗生物質を「いらない場面で使わない」ことも感染対策
抗生物質は、必要なときに使うことで大きな効果を発揮します。一方で、必要がない場面で使っても、ウイルスによる風邪には効果が期待できません。
「念のため抗生物質を飲んでおきたい」と感じる人もいるかもしれません。しかし、抗菌薬は多く使えばよい薬ではありません。必要なときに、必要な種類を、必要な期間使うことが大切です。
処方された抗菌薬を途中でやめたり、残った薬を別の機会に飲んだり、家族や知人に分けたりすることは避けましょう。
抗生物質を正しく使うことは、自分の治療のためだけではありません。薬剤耐性菌を増やさず、将来も感染症を治療できる医療を守るための行動でもあります。
感染対策は、日常の小さな行動から
感染対策は、特別な場所だけで行うものではありません。
外出後に手を洗う、咳エチケットを守る、うがいを日常の習慣として取り入れる、手袋を正しく外す、抗生物質を正しく使う。こうした一つ一つの行動が、自分や周囲の人を守ることにつながります。
大切なのは、思い込みで判断しないことです。
「手洗いとうがいをしていれば大丈夫」「手袋をしているから安心」「風邪には抗生物質が効くはず」と考える前に、正しい知識に立ち返ることが感染予防の第一歩になります。
今日からできる感染対策
- 手洗いを習慣にする
- 咳エチケットを守る
- 体調が悪いときは無理をしない
- 手袋を外した後も手指衛生を行う
- 抗生物質は医師の指示通りに使う
まとめ
感染対策は、難しい専門知識だけで成り立つものではありません。日常生活の中で、正しい知識をもとに行動することが基本です。
手洗い、うがい、手袋、抗生物質。身近な行動の中にも、見直したいポイントがあります。
「知っているつもり」にならず、一つ一つの行動を確かめることが、自分と周囲の人を守る感染対策につながります。
監修
洛和会音羽病院 感染防止対策室
感染管理認定看護師
井上 通人
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