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胃がん手術はロボットでどう変わる?

2026.08.17

精密な操作を支える新しい選択肢

「ロボット支援手術」と聞くと、「どのような手術なのか」「安心して受けられるのか」と不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、実際に手術を行うのは医師です。医師が操作機器を動かし、その動きをロボットアームに伝えながら手術を進めます。 

日本でも、胃がんをはじめとする消化器の手術にロボット支援手術が用いられる機会は増えており、治療の選択肢として広がりつつあります。ロボットを使うことで、胃がん手術はどのように変わるのでしょうか。現在、分かっている特徴と今後の課題を紹介します。

腹腔鏡手術との違いは?ロボット支援手術、5つの特徴

ロボット支援手術では、医師が患者さんのそばで直接器具を握るのではなく、操作台に座り、画面を見ながらロボットアームを操作します。ロボットが自ら判断して手術を行うわけではありません。医師の手の動きをロボットが受け取り、手術器具の細かな動きへと変換します。 

【ロボット支援手術の特徴】 

・高精細で立体的な3D画像 
・従来の腹腔鏡手術器具より広い可動域 
・手ぶれを抑える機能 
・医師の動きを、より細かく精密な動きへ変換する機能 
・さまざまな角度から操作できる関節機能 

一般的な腹腔鏡手術で使う器具は、基本的にまっすぐな形をしています。一方、ロボットの器具には関節があり、人の手首のように角度を変えられます。 

そのため、胃の周囲にあるリンパ節を取り除く操作や、組織を縫い合わせて糸を結ぶ操作を行いやすいと考えられています。拡大された立体的な画像で、組織の層や境目を確認しやすいことも、ロボット支援手術の特徴です。 

まっすぐな器具が届かない場所へ"曲がる"アーム

胃がんの手術では、がんのある部分だけでなく、がんが広がる可能性がある周囲のリンパ節を取り除きます。 

胃の周囲には膵臓や血管などがあり、これらを傷つけないよう慎重に手術を進める必要があります。特に、狭い場所や体の奥では、まっすぐな腹腔鏡の器具だけでは操作が難しくなることがあります。 

ロボット支援手術では、器具の先端を曲げながら、さまざまな方向から手術する場所へ近づけることができます。立体的な画像で組織を確認できることも、細かな操作を支える特徴です。 

胃と膵臓の境界なども拡大して確認できるため、膵臓を過度に圧迫せず、周囲の組織を丁寧に分けていく操作につながる可能性があります。 

また、胃の上部や食道と胃の境目にできたがんでは、切除した後に食道と残った胃などをつなぐ、難しい縫合操作が必要になる場合があります。 

食道と胃の境目にできるがんは「食道胃接合部がん」と呼ばれます。手術後の逆流を防ぐため、つなぎ方に工夫を加えた複雑な再建が必要になることがあります。 

こうした体の奥深い位置での縫合や糸結びは、関節を持つ器具を細かく動かせるロボット支援手術が力を発揮しやすい場面です。ただし、再建方法は、がんの位置や切除する範囲によって異なります。すべての食道胃接合部がんで同じ方法が選ばれるわけではありません。

術後合併症、ロボット支援手術で本当に減らせる?

精密な操作ができることは、手術後の合併症を減らすことにつながるのでしょうか。 

京都府立医科大学の過去の解析では、胃の下部を切除したロボット支援手術21例と、腹腔鏡手術119例を比較しています。術後合併症は、腹腔鏡手術で24.3%、ロボット支援手術で6.7%でした。 

出典:Kubota T, et al. “Does Robotic Distal Gastrectomy Facilitate Minimally Invasive Surgery for Gastric Cancer?” Anticancer Research. 2019;39:5033–5038.

ただし、患者さんの人数や背景には違いがあり、統計学的に明確な差は確認されていません。そのため、この結果だけで「ロボット支援手術の方が安全」と断定することはできません。また、手術後1日目に測定した排液中のアミラーゼという数値は、ロボット支援手術で低い結果でした。アミラーゼは、膵臓への影響を判断する手がかりの一つです。 

しかし、ロボット支援手術によって合併症を減らせるかどうかを判断するには、さらに多くの患者さんを対象とした研究が必要です。 

ガイドラインでは「弱く推奨」

日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」2025年版では、切除できる胃がんに対するロボット支援手術について、「行うことを弱く推奨する」とされています。判断の根拠となる研究結果の強さは「C」と評価されています。 

前版では主にステージIの胃がんを対象としていましたが、2025年版では「切除可能な胃がん」へと対象が広がりました。ロボット支援手術の位置付けが、少しずつ変化していることが分かります。2025年版の胃癌治療ガイドラインでは、切除できる胃がんに対するロボット支援手術について、「行うことを弱く推奨する」とされています。 

「弱く推奨」と聞くと、技術的に不安がある手術なのではないかと感じる方もいるかもしれません。これはロボット支援手術を受けるべきではないという意味ではありません。また、ロボット支援手術の技術が腹腔鏡手術より劣っているという意味でもありません。 

現時点では、腹腔鏡手術より明らかに安全なのか、どのような患者さんに特に適しているのかを判断するための研究結果が、まだ十分にそろっていないという位置付けです。 

そのためガイドラインでは、ロボット支援手術を選択肢の一つとして認めつつ、今後の研究結果を見ながら評価していく段階とされています。 

安全性は比較検証中

ロボット支援手術の安全性を詳しく調べるため、「JCOG1907試験」と呼ばれる研究が進められています。 

この研究では、手術で切除できる胃がんの患者さんを、ロボット支援手術と腹腔鏡手術に分け、安全性などを比較します。 複数の施設が参加する大規模な研究であり、ロボット支援手術が腹腔鏡手術よりも安全性の面で優れているかを検証することが目的です。 

この試験の結果は、今後、ロボット支援手術をどのような患者さんに勧めるかを検討するうえで、重要な判断材料になると考えられます。 

主治医にこれだけは聞いておきたい

ロボット支援手術には、立体的な画像や関節を持つ器具によって、細かな操作を行いやすいという特徴があります。一方で、すべての胃がん手術でロボット支援手術を用いる必要があるわけではありません。腹腔鏡手術や開腹手術が適している場合もあります。 

手術を勧められたときは、次のような点を主治医に確認してみましょう。 

・なぜ自分にはこの手術方法が勧められるのか 
・腹腔鏡手術や開腹手術との違いは何か 
・起こる可能性がある合併症は何か 
・ロボット支援手術から別の方法へ変更する可能性はあるか 
・同じ手術をどの程度行っているか 

病状や体の状態によって、適した手術方法は異なります。分からないことや不安がある場合は、主治医から十分な説明を受けたうえで、治療方針を相談することが大切です。 

胃がんのロボット支援手術は、医師の手の動きをより細かく精密な動きへ変換し、立体的な画像や関節を持つ器具によって手術を支える方法です。 

新しい手術だからという理由だけで判断せず、自分の病状にどの方法が適しているのか、主治医と十分に話し合いましょう。 

京都府立医科大学大学院 消化器外科学 
塩﨑 敦 教授(しおざき・あつし) 

専門・資格 

消化器外科学、上部消化管外科(食道外科)、縦隔鏡・腹腔鏡外科 
消化器外科専門医、食道外科専門医 

※本記事は、第40回 中京西部医師会・洛和会丸太町病院 生涯教育講演会「食道癌外科治療の変遷と最前線」で紹介された、胃がんのロボット支援手術に関する内容をもとに構成しています。

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