医療機器があっても家で暮らせる? 在宅医療の今を知る
2026.09.11
「医療機器」と聞くと、病院の中で使う大きな機械や、重症の人が使う特別なものを思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかし現在は、自宅や施設など、住み慣れた場所で医療機器を使いながら生活する人が増えています。酸素療法、CPAP、人工呼吸器、在宅透析、ペースメーカーの遠隔確認など、在宅で支えられる医療は少しずつ広がっています。
医療機器は、生活を制限するものではなく、暮らしを続けるための支えになることがあります。洛和会音羽病院 CE部の臨床工学技士・藤石裕之さんに、在宅医療と医療機器の今について聞きました。
「病気があっても地域で暮らす」時代へ
日本では高齢化が進み、医療や介護を必要とする人が増えています。一方で、病院のベッド数や医療従事者には限りがあります。
近年は、入院期間の短縮や医療費の増大、地域包括ケアシステムの考え方などを背景に、医療のあり方が変わってきています。
これまでのように「病気になったら病院で治す」だけではなく、病気や障がいがあっても、住み慣れた地域で療養を続けることが重視されるようになっています。
こうした流れは、「病院完結型」から「地域完結型」への転換ともいわれます。病院だけで医療を完結させるのではなく、地域の診療所、訪問看護、介護サービス、家族、そして医療機器のサポートを組み合わせながら、暮らしを支える考え方です。
在宅医療は「自宅だけ」の話ではない
在宅医療というと、自宅で受ける医療をイメージしやすいですが、実際には自宅だけに限られません。
サービス付き高齢者向け住宅や特別養護老人ホームなど、生活の場で医療を受けることも在宅医療に含まれます。医師や看護師が訪問し、診察、点滴、薬の管理などを行うことで、病院以外の場所でも医療を受けながら生活を続けることができます。
つまり、在宅医療は「病院に行かない医療」ではありません。病院や地域の専門職とつながりながら、暮らしの場で療養を続ける医療です。
在宅医療の主な場所
- 自宅
- サービス付き高齢者向け住宅
- 特別養護老人ホーム
- その人が生活している住まい
自宅で受けられる医療は増えている
「自宅では本格的な医療は受けられない」と思う人もいるかもしれません。
しかし実際には、在宅で受けられる医療は多くあります。点滴、酸素療法、人工呼吸器、栄養管理、在宅透析など、病状や生活状況に応じて、さまざまな医療が自宅で行われています。
たとえば、食事が十分に取れない人には経管栄養などの栄養管理が行われることがあります。肺の病気などで酸素が不足する人には、在宅酸素療法が使われます。睡眠時無呼吸症候群では、CPAPという機器を使い、睡眠中の呼吸を支えることがあります。
医療機器の進歩によって、病院でなければ難しかった治療の一部が、生活の場でも行えるようになっています。
自宅で受けられる医療の例
- 点滴
- 在宅酸素療法
- 人工呼吸器
- 経管栄養などの栄養管理
- 在宅透析
- CPAP
- ペースメーカーの遠隔確認
医療機器は「生活を支える道具」
医療機器を使う生活と聞くと、「自由に出かけられなくなる」「普通の生活が難しくなる」と感じる人もいるかもしれません。
たとえば、慢性閉塞性肺疾患、いわゆるCOPDの人が在宅酸素療法を使う場合があります。COPDは、主に喫煙などが原因で肺が傷み、息切れ、咳、痰などが続く病気です。坂道や階段がつらくなることもあります。
在宅酸素療法では、機器で酸素を供給しながら生活を送ります。携帯型酸素ボンベを使えば、散歩や買い物、外出を続けられる場合もあります。
医療機器は、生活を制限するためのものではありません。呼吸を助け、活動を支え、その人らしい暮らしを続けるための道具になることがあります。
睡眠中の呼吸を支えるCPAP
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりします。
大きないびき、日中の眠気、集中力の低下などが代表的な症状です。放置すると、高血圧、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高くなることがあります。
CPAPは、睡眠中に空気を送り込み、気道がふさがるのを防ぐ医療機器です。自宅で使う機器の一つで、睡眠中の呼吸を支えます。
「医療機器を使う」と聞くと大がかりに感じるかもしれませんが、CPAPのように、日常生活の中で継続して使う医療機器もあります。
人工呼吸器も在宅で使われることがある
人工呼吸器と聞くと、集中治療室で使われる機器を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし現在は、病状によっては在宅で人工呼吸器を使いながら生活する人もいます。ALS、神経筋疾患、重症呼吸不全などで呼吸のサポートが必要な場合、医師の判断のもとで在宅人工呼吸療法が行われることがあります。
在宅で人工呼吸器を使う場合は、機器の管理だけでなく、家族の理解、訪問看護、医療機関との連携、緊急時の対応などが欠かせません。
住み慣れた場所で家族と過ごしながら生活を続けるために、医師、看護師、臨床工学技士などがチームで支えます。
在宅人工呼吸器を支える体制
- 医師による治療方針
- 訪問看護による日常管理
- 臨床工学技士による機器の確認
- 家族や介護者の理解
- 緊急時の連絡体制
- 停電時の備え
ペースメーカーも自宅から状態を確認できる時代に
不整脈の中には、心臓のリズムが遅くなり、ペースメーカーが必要になるものがあります。
以前は、ペースメーカーの状態を確認するために、定期的に病院を受診する必要がありました。現在は、自宅に通信機器を置くことで、心臓の状態や機器の異常を病院へ送信できる仕組みもあります。
異常があれば病院から連絡が入るため、患者さんの通院負担を減らすことにつながります。
医療機器は、単に体に装着するものだけではありません。遠隔で状態を見守り、必要なときに医療につなげる役割も広がっています。
医療機器を安全に使うために、チームで支える
在宅医療は、本人や家族だけで成り立つものではありません。
医師は治療方針を決め、看護師は訪問や日常管理を行います。ケアマネジャーや介護職は、生活支援の調整を担います。そして臨床工学技士は、医療機器の専門家として、機器の点検、設定確認、トラブル対応、安全確認に関わります。
医療機器を自宅で使うには、正しく使えること、異常に気付けること、困ったときに相談できることが大切です。機器そのものだけでなく、支える体制があることで、在宅での療養生活が成り立ちます。
在宅医療を支える人たち
- 医師
- 看護師
- 臨床工学技士
- ケアマネジャー
- 訪問介護職
- 地域の支援者
停電や災害への備えも大切
医療機器を自宅で使うときに、特に考えておきたいのが停電や災害への備えです。
人工呼吸器や酸素濃縮器など、電源を必要とする機器では、停電時の対応を確認しておく必要があります。バッテリーに自動で切り替わる機器もありますが、使用できる時間には限りがあります。
予備バッテリーの準備、充電状況の確認、緊急連絡先の共有、避難先での電源確保などを、普段から確認しておくことが大切です。
京都や滋賀でも、台風、大雨、地震などの災害は起こり得ます。医療機器を使っている人にとって、災害対策は命を守る備えにつながります。
医療機器を使う人の災害への備え
- バッテリーの使用時間
- 予備バッテリーの有無
- 充電状況
- 緊急連絡先
- 停電時の対応方法
- 避難先で電源を使えるか
「家で暮らす」という選択肢を知っておく
将来、自分や家族が医療機器を必要とする場面があるかもしれません。
そのときに、「機械が必要なら家では暮らせない」と思い込むのではなく、「支援を受けながら家で暮らす選択肢もある」と知っておくことは大切です。
もちろん、すべての人が在宅医療を選べるわけではありません。病状、家族の状況、住まいの環境、必要な医療の内容によって、病院や施設の方が安心な場合もあります。
大切なのは、本人や家族の希望をもとに、医療者や地域の支援者と相談しながら、無理のない療養の形を考えることです。
医療機器は、病院の中だけのものではなくなっています。これからの暮らしの中で、在宅医療や医療機器をどう使うかを知っておくことが、選択肢を広げるきっかけになります。
まとめ
在宅医療は、特別な人だけのものではありません。病気や障がいがあっても、住み慣れた場所で療養を続けるための選択肢の一つです。
酸素療法、CPAP、人工呼吸器、在宅透析、ペースメーカーの遠隔確認など、医療機器を使いながら生活を支える仕組みは広がっています。
医療機器を安全に使うには、本人や家族だけでなく、医師、看護師、臨床工学技士、ケアマネジャーなどの多職種による支援が欠かせません。停電や災害への備えも含めて、普段から確認しておくことが大切です。
医療機器が必要になっても、暮らしを続ける方法は一つではありません。まずは「家で暮らす選択肢もある」と知ることから、在宅医療への理解が始まります。
監修
洛和会音羽病院 CE部 臨床工学技士
藤石 裕之
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