医療ソーシャルワーカーの役割を知る
2026.09.10
病気やけがで入院すると、治療のことだけでなく、退院後の生活や介護、医療費、仕事、家族のことなど、さまざまな不安が出てくることがあります。
「家に帰れるだろうか」「家族だけで介護できるだろうか」「医療費や生活費は大丈夫だろうか」。そんな生活の困りごとを、病院の中で相談できる専門職がいます。
それが、医療ソーシャルワーカー(MSW)です。医療と福祉をつなぎ、本人や家族の希望を大切にしながら、退院後の暮らしを一緒に考えます。洛和会音羽病院 医療介護サービスセンターの社会福祉士・伊達豊さんに、医療ソーシャルワーカーの役割について聞きました。
入院すると、病気以外の心配も出てくる
入院中は、医師や看護師から病気や治療について説明を受ける機会があります。検査や手術、薬、リハビリなど、まずは体の回復に向けたことが中心になります。
一方で、入院生活が進むにつれて、病気以外の心配が出てくることもあります。
退院後に家で暮らせるのか。家族だけで介護できるのか。これまで通り仕事を続けられるのか。医療費や生活費はどうなるのか。介護保険や福祉サービスは使えるのか。
こうした不安は、病気そのものとは少し違うため、「誰に相談すればよいのか分からない」と感じる人も少なくありません。
医療ソーシャルワーカーは、病気やけがによって起こる生活上の困りごとを一緒に整理する専門職です。病気だけを見るのではなく、その人の暮らし全体を見ながら、必要な制度や地域の支援につなげていきます。
医療ソーシャルワーカーに相談できること
医療ソーシャルワーカーは、医療と福祉をつなぐ役割を担っています。
相談できる内容は、退院後の生活、自宅で必要な支援やサービス、転院や施設のこと、介護保険や障害福祉制度、医療費や生活費、仕事や家族のことなど幅広くあります。
たとえば、「家に帰りたいけれど、今の体の状態で生活できるか不安」「一人でお風呂に入るのが怖い」「通院の方法が分からない」「介護保険をどう使えばよいか分からない」といった相談です。
本人の希望と、実際の生活で必要になる支援を照らし合わせながら、どのような選択肢があるのかを一緒に考えます。
退院支援は「家に帰る準備」だけではない
退院支援という言葉を聞くと、「自宅へ帰るための準備」と思う人もいるかもしれません。
しかし、退院支援は、自宅に帰ることだけを意味するものではありません。退院後も安全に、安心して暮らせるように、入院中から本人や家族と一緒に準備を進めることです。
自宅に帰る場合もあれば、リハビリを続けるために転院する場合、施設への入所を考える場合もあります。大切なのは、本人と家族の希望を確認しながら、無理のない形を考えることです。
医療者だけで退院後の生活を決めるのではなく、選択肢の良い点や難しい点を一緒に整理し、本人と家族が納得して選べるように支援します。
「家に帰りたい」という希望がある場合でも、段差や浴室、トイレ、通院方法、家族の介護力などを確認する必要があります。反対に、「家に帰るのは難しいかもしれない」と感じていても、利用できるサービスや住環境の調整によって、選択肢が広がることもあります。
退院支援で大切にすること
- 本人と家族の希望を聞く
- できること、心配なことを整理する
- 自宅、転院、施設などの選択肢を考える
- 介護保険や福祉サービスにつなぐ
- 退院後の相談先を確認する
たとえば、足の骨折で入院した場合
足の骨折で入院した人が、治療を終えて退院を考える場面を想像してみます。
入院前は自宅で生活できていたとしても、入院後に歩く力が落ちることがあります。これまで通っていた病院への通院が難しくなるかもしれません。一人でお風呂に入ることに不安を感じることもあります。
このような場合、医療ソーシャルワーカーは、まず本人や家族の不安、希望を聞きます。そのうえで、できること、心配なこと、自宅の状況を整理します。
必要に応じて、介護保険の申請を手伝い、ケアマネジャーなど地域の支援者につなぎます。リハビリを行いながら、自宅での動き方を確認することもあります。浴室に手すりを付ける、通院方法を確認する、困ったときの相談先を決めておくなど、退院後の生活に向けた準備を進めていきます。
一つ一つ不安を整理していくことで、「これなら家で暮らせそう」と思える状態に近づけていきます。
ケアマネジャーとは役割が違う
医療ソーシャルワーカーと混同されやすい職種に、ケアマネジャーがあります。
どちらも生活を支える専門職ですが、主に関わる場所や役割が異なります。
医療ソーシャルワーカーは、主に病院で相談に対応します。病気やけがに伴う生活課題、退院、転院、施設、医療費などについて、年齢を問わず相談できます。
一方、ケアマネジャーは主に地域で、介護保険サービスの調整やケアプラン作成を担います。要介護、要支援の認定を受けた人を支援する専門職です。
退院後は、医療ソーシャルワーカーからケアマネジャーへ支援をつなぐこともあります。病院での支援と地域での支援がつながることで、退院後の生活を継続して支えやすくなります。
病院と地域をつなぐ橋渡し役
医療ソーシャルワーカーは、病院と地域の橋渡し役でもあります。
病院の中では、医師、看護師、リハビリ職などと連携し、病状や体の状態、退院後に必要になりそうな支援を確認します。
病院の外では、ケアマネジャー、訪問看護、次の病院や施設、地域の支援者などとつながり、退院後の生活を支える準備を進めます。
入院中と退院後では、関わる人や制度が変わります。病院で受けていた支援が、退院と同時に途切れてしまわないように、必要な情報を地域の支援者へつなぐことも大切な役割です。
本人と家族を中心に、病院内外の関係者をつなぎながら、退院後の暮らしを具体的に整えていきます。
相談内容がまとまっていなくても大丈夫
入院中に生活の不安が出てきても、「こんなことを相談していいのだろうか」と迷う人は少なくありません。
しかし、相談内容は最初からきれいにまとまっていなくても大丈夫です。
話をしながら、何が心配なのか、どの制度や支援が使えそうかを一緒に整理していきます。
洛和会音羽病院では、病棟ごとに医療ソーシャルワーカーがいます。入院中に退院後の生活の困りごとや不安がある場合は、病棟スタッフに「MSWに相談したい」「退院後の生活のことで相談したい」と伝えることで相談につながります。
こんな一言で大丈夫です
- 退院後の生活のことを相談したい
- 家に帰れるか不安です
- 介護保険について知りたい
- 医療費や生活費が心配です
- 家族だけで介護できるか不安です
ひとりで抱え込まず、早めに相談を
入院は、本人だけでなく家族の生活にも大きく関わります。治療が終わっても、すぐに元の生活に戻れるとは限りません。
自宅で暮らすのか、転院や施設を考えるのか。介護保険を使えるのか。通院や入浴、食事、家族の負担をどうするのか。退院後の生活には、考えることがたくさんあります。
不安があるときは、早めに相談することで、選択肢を整理しやすくなります。
医療ソーシャルワーカーは、病気やけがによって変化した生活を、本人や家族と一緒に考える専門職です。「退院後の生活のことで相談したい」。その一言が、必要な支援につながるきっかけになります。
まとめ
病気やけがで入院すると、治療のことだけでなく、暮らしの不安も生まれます。
医療ソーシャルワーカーは、退院後の生活、介護、医療費、仕事、家族のことなどを一緒に整理し、必要な制度や地域の支援につなぐ専門職です。
相談内容がまとまっていなくても問題ありません。退院後の生活に不安があるときは、病棟スタッフに「生活のことを相談したい」と伝えることから始めてみましょう。
監修
洛和会音羽病院 医療介護サービスセンター
伊達 豊
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