国籍や文化が違っても安心して受診できる環境へ。これからの医療安全
2026.09.15
近年、日本に居住する外国人や観光等で訪れる外国人が増加し、京都の医療機関を受診するケースも日常的な光景となっています。言葉や文化、生活習慣の異なる患者が、日本の医療機関を訪れた際、お互いが戸惑うことなく、安心して安全な医療を受けられるようにするためには、どのような体制が必要なのでしょうか。 いま日本の医療現場で求められている「外国人患者の受け入れ体制」の本当の意味について考えていきます。
「言葉が通じる」だけでは足りない医療コミュニケーション
一般的に、病院の外国人対応と聞くと「英語が話せる医師やスタッフがいること」を思い浮かべるかもしれません。しかし、医療の現場では、日常会話ができるだけでは不十分です。 病気やケガの治療においては、患者の症状を正確に聞き取り、服用している薬やアレルギーの有無を確実に確認し、検査や治療の内容、それに伴うリスクを分かりやすく説明して「同意」を得ることが欠かせません。もし、このコミュニケーションに少しでもすれ違いがあれば、誤った処方や不適切な治療につながるなど、患者の命や健康を脅かす「医療安全」上の重大なリスクが生じてしまいます。
そのため、一部の職員の語学力だけに頼るのではなく、多様なコミュニケーションツールを整備しています。例えば、AI翻訳や電話通訳、翻訳された多言語の同意書・案内資料、そして日本語をシンプルで分かりやすく表現する「やさしい日本語」などを、状況や部署に応じて柔軟に組み合わせる仕組みが、正確で安全なコミュニケーションのために極めて重要となっています。
医療の現場で直面する「言葉以外」の壁
外国人患者の受け入れにあたって、医療現場で配慮が必要となるのは「言葉」だけではありません。文化、宗教、食事、生活習慣、日本の複雑な医療制度や支払い方法など、多岐にわたる違いへの対応が求められます。特に以下のような項目で、患者と医療機関の双方が直面する課題を解決する具体的な配慮が重要視されています。
文化・宗教と「食生活」への配慮
特定の宗教上の規則や、個人の文化的背景、主義によって、食べられる食材が厳格に制限されている場合があります。これに対し、入院時などに適切な「特別食(選択食)」を提供できる体制が整えられているかどうかが、すべての患者さんが「安心して過ごせる環境が整っているか」を判断するうえで、非常に重要なポイントとなります。
医療費と「支払い方法」の壁
海外からの短期滞在者などの場合、日本の健康保険制度が適用されず、自己負担額が高額になることがあります。また、支払いにおける不払いのリスクや患者自身の利便性を考慮し、クレジットカードやデビットカード、2次元コード(QRコード)決済、さらには交通系電子マネーなどのキャッシュレス決済に対応できる環境づくりが必要です。
院内表示と多言語での情報提供
体調が悪い中、複雑な院内のどこに行けばよいのかが視覚的に分かるよう、院内表示(英語・中国語などの多言語併記)の工夫や、多言語でのパンフレット類の設置が求められます。
属人化させない、医療機関「全体」の安全な仕組みづくり
外国人患者が受診した際、特定の「英語ができる職員」がたまたまその場にいるときにしか対応できない、という状況では、24時間365日の救急医療や安全な診療を継続することはできません。医療安全を担保するためには、どの部署に外国人患者が来られても、同じように質の高い対応ができる「組織としての仕組み(標準化)」が必要です。具体的には、通訳・翻訳ツールの場面ごとの選定基準を明確に定めること外国語で診療や説明を行った際、対応した言語や通訳の有無、患者が内容をどこまで理解したか(理解度)を、具体的なカルテに漏れなく正確に記載すること、院内の各部署における外国人患者の受け入れマニュアルを、一過性のものではなくPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)に則って継続的に改訂し、現場に浸透させること、これらが満たされて初めて、職員が入れ替わっても、夜間や緊急時であっても、一貫して安全な医療が提供できるのです。
第三者の視点で受け入れ体制を客観的に評価する「JMIP」
これまでにご紹介してきたような、多言語でのコミュニケーション、食事や決済における「言葉以外の壁」への配慮、そして属人化させないための組織全体の仕組み。これらが特定の担当者だけでなく、「病院全体で本当に機能しているか」を第三者の視点から総合的かつ客観的に評価する制度があります。それが、外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP:ジェイミップ)です。 JMIP(Japan Medical Service Accreditation for International Patients)は、厚生労働省の支援事業の一環として、医療福祉社会の発展に貢献する中立・公平な第三者機関である「一般財団法人日本医療教育財団」が開発・運営している認証制度です。
JMIPの審査では、単に「外国語を話せるスタッフがいる」といった個人のスキルに頼るのではなく、病院という大きな組織全体がシステムとして機能しているかを、5つの機能分類(評価項目)に沿って多角的に審査します。
① 受入れ対応
初期の受付や電話、夜間や緊急時の受け入れルールが明確になっているか。
② 患者サービス
院内の多言語表示、特別食・選択食への対応、多角的な決済手段(クレジットカードや電子マネー等)が整備され、安心を提供できているか。
③ 医療提供の運営
場面に応じた翻訳通訳ツールの選定基準、説明への納得度、カルテへの通訳履歴の記載など、診療行為が安全に行われているか。
④ 組織体制と管理
病院全体の基本方針に外国人患者受け入れが盛り込まれ、全職員への語学や文化の教育研修、安全管理委員会での議論が継続的に行われているか。
⑤ 改善に向けた取り組み(PDCA)
患者アンケートやご意見箱を多言語で準備し、収集した課題をもとにマニュアルをアップデートする継続的な仕組みがあるか。
誤解してはいけない重要なポイント
ここで一般の私たちが誤解してはならない重要なポイントがあります。それは、JMIPが「医療の技術や質そのものを直接保証する制度」ではないという点です。また、認証を取得している病院が「外国人だけを専門に診る特別な病院」であることを意味するわけでもありません。 この認証は、国籍、言語、文化の違いにかかわらず、誰もが等しく、日本の質の高い医療サービスへ安全かつスムーズにアクセスできる「優しい受け入れ体制と、確実な安全対策の仕組みがしっかりと整っている医療機関」であることを証明するための目印です。
京都の地域医療でも進む、誰もが安心できる医療環境づくり
世界中から人々が訪れる京都は、留学生や外国人労働者など、地域で暮らす在留外国人も多い国際都市です。外国人患者の受け入れ体制を整えることは、特別なことではありません。それは、医療安全や患者の尊厳を最優先する病院にとって、ごく自然で必要な取り組みの一部です。認証を取得したことは一つの大きなマイルストーンですが、それがゴールではありません。医療を取り巻く環境や患者のニーズは常に変化し、実際の運用の中で見えてくる課題やマニュアルの見直し、多言語での意見収集など、地道なPDCAサイクルを回し続けることこそが、本当の「安心」へとつながっていきます。
言葉や文化が違っても、誰もが必要な医療に安全につながれる社会を目指して、京都の医療機関は今日も改善を積み重ねています。
京都府内のJMIP認証3医療機関一覧
参考資料
一般財団法人 日本医療教育財団「外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)」
厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」
厚生労働省「医療の国際展開」
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