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保護中: 音楽療法士が見た 「やさしいコンサート」の価値

2026.04.22

音楽療法士とは… 音楽の使い方を専門的に学び、心や体、人との関わりを支える専門職。医療や福祉の現場で活躍する。

コンサートや音楽会に行ったことはありますか?コンサートは、芸術作品の一つである音楽の生演奏を聴くこと、鑑賞することがメインのイベントです。会場内では、「聴く」を楽しむために「静かに座っている」ことが求められます。となれば、特定の人にとっては行きにくく、行けない場合もあります。この「行きたくてもいけない」という状況は、社会の「障害」にならないでしょうか? 

そんなコンサートのあり方に新しい風を吹き込みました。2026年3月、京都コンサートホール主催「みんなのやさしいコンサート」は、これまで諦めていた人に、新たなチャンスをもたらしたのです。今、私たちの街・京都に、なぜこうした場が必要なのか、「みんなのやさしいコンサート」に携わって得た気づきを皆さんへ共有します。 

6月1日 Kyoto Music Caravan 2025くろ谷 金戒光明寺弦楽四重奏コンサート

新しい鑑賞のかたち

京都コンサートホールの開館30周年を記念した音楽イベント『Kyoto Music Caravan 2025』。1年をかけて展開されてきたこの取り組みの締めくくりとして、2026年3月14日、京都コンサートホール 大ホールにて「みんなのやさしいコンサート」が開催されました。コンセプトは、「障がいのある人もない人も、大人も子どもも、誰もが楽しめる音楽会」。

「声を出してもいい」「客席で動いてもいい」「途中で入退場してもいい」
このようなスタイルを全面的に打ち出し、
当日は約700名の観客が詰めかけました。そのうち200名以上が障がいのある方とその介助者です。 

「誰もが楽しめる音楽会」実現には、観客の皆さんが安心していられる環境づくり重要でしたそれを支えたのが芸術×福祉という異なる分野のプロフェッショナルによる連携です。 

音楽療法士の役割 〜ステージと客席はボーダレスへ

音楽療法士・柴田恵美(プレコンサートMusic Here, Music Nowにて)

私たち音楽療法士がかかわったプレコンサート〈Music Here, Music Now〉では、観客自身が“音楽をつくる存在になる”というコンセプトで即興演奏の場を設けました。当日は、観客それぞれが自分で聴きやすい・居やすい場所を選べるよう、全自由席でした。通常のコンサートより余裕をもった開演1時間前に開場され、観客のみなさんはそれぞれに自分にあった場所を選んでいきます。 

会場内が少し落ち着いた頃、いよいよプレコンサートの始まりです。私はピアノを弾きながら、「こんにちはー♪」と会場に歌いかけます。すると、「こんにちはー!」と手を振って、たくさんの声が返ってきました。2階席から身を乗り出すように大きく手を振って返す姿も。「どこから来たのかな?」と続けて歌いかけると、「中京区から来たー」「電車で来たー」とさまざまなレスポンスがあり、そのやりとりが音楽になっていきました。

ステージと客席という境界を超えて、ボーダーレスに音楽的交流がさかんに起こった瞬間です。ただの観客席ではない、共に「みんなで楽しむ音楽会」の序章ができました。 

スペシャリストたちの存在

国際障碍者交流センター「ビッグ・アイ」の鈴木京子さんは、当日の会場をこう振り返ります。 「看護師の資格を持つスタッフが多く配置されており、ケアが必要な方へのサポートが素晴らしかった」

鈴木さんは特に、「自然な声かけ」が、安心できる空間を生み出していたと言います。劇場スタッフだけではむずかしいタイミングでのサポートを、医療・福祉の専門職が補うことで、これまで「行きたくても諦めていた人」が来られる環境が整いました。日々の業務での専門職の力が自然と発揮された場面です。 

「医療・福祉・芸術が横断的に関わることで、受け入れられるスペースは確実に大きくなっていく」
その言葉通りの手応えを、現場にいた私たちも確かに感じていました。

なぜ今、京都に「やさしい」が必要か
なぜ今、京都でこうした取り組みが必要なのでしょうか。京都は世界を代表する歴史都市であり、数々の神社仏閣や風情ある街並みが今なお残されていますしかし、木造建築が多い京都ではバリアフリー化が難しく、車椅子の方や体の不自由な方が、物理的な「壁」を感じる場面があることも否定できない事実です。
 
一方で、条例に基づく整備や、観光のユニバーサル化に向けた取り組みも進んでいます。今回のプロジェクトでも、車椅子席の設置や段差のない導線の確保といった物理的な配慮に加え、スタッフのマインドセット、つまり「心のバリアフリー」の強化に重点が置かれました。
  • 京都コンサートホールとブリーフィング

  • 昇降式ベッドの設置をするスタッフ

  • 観客を出迎えるワルの助

  • 緊急時の導線確認をする看護師たち

  • バキーの忘れものを届ける駐車場スタッフ

  • 大人と子どものおむつ替えスペース

今回のプロジェクトには、看護師や福祉用品を扱うスタッフ含む約40名のサポートスタッフが現場を支えました。これは単なるイベント協力ではありません。医療・福祉の現場がもつ、個々への「寄り添い」の視点を文化事業に持ち込むことで、「心のバリアフリー」を街に実装する挑戦です。 誰もが社会の一員として当たり前に文化を楽しめることは、 京都の街をより健やかで、持続可能なものに変えていくはずです。 

自分ごととして、未来を想う

私たちは日々、さまざまな体験や経験を通して成長していきます。それは障がいや病気の有無、世代や年齢に関係ありません。だれもが成長する機会は平等にあります。そのチャンスが何らかの理由で失われているのなら、その理由=「壁」「バリア」を取り除く働きはできます。 

「みんなのやさしいコンサート」は、誰もがその場に「いていい」と思える空間を拓く取り組みです。「ここに来ていいんだよ」「一緒に楽しんでいいんだよ」「いろんな経験をしよう」と温かく迎え入れてくれる場所がある。そう想像できることは、日常に安心をもたらします。

出演者:濱野芳純(オルガン)、森本英希(フルート)、石上真由子(ヴァイオリン)、田村 緑(ピアノ)、齋藤綾乃(パーカッション)、潮見裕章(テューバ)

今回の実現に携わった多くのスタッフにとっても、この日は発見と気づきの連続でした。音楽が架け橋となり、医療と文化が溶け合うことで、誰もが自分らしく響き合える社会の実現へとつながっていくと信じています。

洛和会京都音楽療法研究センター 音楽療法士

柴田 恵美(しばた えみ )

■資格など
日本音楽療法学会認定音楽療法士
ノードフ・ロビンズ音楽療法士(NRMT)
認知症ケア専門士
中学・高等学校教諭一種(音楽科)
社会福祉主事
ヘルパー2級
音楽療法実習担当(日本音楽療法学会認定資格カリキュラム)