「認知症かな?」と思ったら
2026.11.05
「同じことを何度も尋ねるようになった」「約束したこと自体を忘れている」「家族として、どう接すればよいのか分からない」。もの忘れへの不安は、ご本人だけでなく、ご家族の暮らしにも影響します。京都府の65歳以上の人口は、2025年の75万9000人から、2040年には81万5000人になると推計されています。また、全国では、認知症のある高齢者の割合が約15%になると見込まれています。認知症は、特別な誰かだけに関わるものではなく、私たちの暮らしに身近な課題です。
まずは、ご自身やご家族の普段の様子を振り返ってみましょう。次の項目は、気になる変化にチェックして、相談を考えるための手掛かりにしましょう。
もの忘れに関する変化
□ 朝ごはんを食べたこと自体を忘れることがある
□ 目の前にいる人が誰なのか分からないことがある
□ 物の置き忘れや紛失が頻繁になった
□ 約束したこと自体を覚えていないことがある
□ 数分前に聞いたことや話したことを覚えていないことがある
日々の暮らしに関する変化
□ もの忘れによって日常生活に支障が出るようになった
□ 同じことを何度も尋ねるようになった
□ 怒りっぽくなったと感じることがある
□ やる気がなくなったように見えることがある
□ ご本人やご家族だけでは対応が難しいと感じることがある
加齢によるもの忘れとの違い
年齢を重ねると、「何を取りに来たのか思い出せない」「人の名前がすぐに出てこない」といった経験が増えてきます。加齢によるもの忘れは、経験したことの一部を思い出せない状態です。朝ごはんのメニューを思い出せなくても、朝ごはんを食べたこと自体は覚えています。約束をうっかり忘れていても、相手から言われると思い出せるのが一般的です。
認知症による記憶障害では、「朝ごはんを食べたこと自体を忘れる」「約束したことそのものを覚えていない」など、経験したこと全体が抜け落ちるのが特徴です。置き忘れや紛失が頻繁になる、数分前の記憶が残らないなど、日常生活に影響が出ているかどうかも、変化に気付く手掛かりになります。
認知症は、加齢によるもの忘れとの区別がつきにくいことがあります。紹介した違いだけで、ご本人やご家族が認知症かどうかを判断することはできません。
どうして認知症になるのか?
認知症は、特定の一つの病気を指す言葉ではありません。脳の病気によって、覚える、考える、判断するといった知的な機能が全般的かつ持続的に低下し、日常生活に支障が生じている「状態」を指します。私たちの脳では、多くの神経細胞が情報をやり取りしながら、記憶や判断などの働きを支えています。認知症のある方の脳では、神経細胞が減少したり、その働きが低下したりしています。
神経細胞に変化が起こる原因は一つではありません。脳の血管に障害が起こることや、異常なたんぱく質が脳にたまることなどが関係します。年齢を重ねるにつれて、複数の変化や病気が重なっていく例もあります。
認知症を引き起こす病気には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症などがあります。一方で、ほかの病気によって認知症に似た症状が現れることもあります。原因によって必要な治療や対応は異なります。もの忘れなどの変化だけで原因を判断せず、医療機関で診察や検査を受けることが大切です。
「もう少し様子を見よう」と迷ったときは
医療機関に相談するかどうか迷うこともあるかもしれません。認知症に似た症状は、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症、正常圧水頭症、薬の影響、せん妄、うつ病などによって現れることがあります。適切な処置によって改善する場合もあるため、気になる変化が続くときは、早めに医療機関へ相談することが大切です。認知症の場合も、早い段階から治療を始めることで、進行を遅らせたり、症状を和らげたりできる場合があります。医療や介護の支援を受けることは、生活上のトラブルを減らし、その後の対応を落ち着いて考えることにもつながります。初期の段階では、診断が難しいこともあります。ご本人やご家族だけで結論を出そうとせず、専門の医療機関への相談も選択肢として考えましょう。
暮らしの中で取り組めること
認知症への備えとして、生活に関わる複数の取り組みを組み合わせる「多因子介入」があります。多因子介入は、認知症の発症や進行のリスクを下げる可能性があります。認知症のある方の認知機能の向上に役立つとの報告もあります。軽度認知障害のある方や認知機能が正常な高齢者にも有効とみられています。具体的には、次の4つが柱になります。
認知症への備えとして、生活に関わる複数の取り組みを組み合わせる「多因子介入」があります。多因子介入は、認知症の発症や進行のリスクを下げる可能性があります。認知症のある方の認知機能の向上に役立つとの報告もあります。軽度認知障害のある方や認知機能が正常な高齢者にも有効とみられています。具体的には、次の4つが柱になります。
- 体を動かす
- 栄養について学び、食生活を見直す
- 認知機能を使う活動に取り組む
- 人や地域とのつながりを持つ
認知機能が正常な高齢者を対象とした研究では、体を動かす習慣、栄養指導、認知訓練、社会的活動を組み合わせた取り組みが、認知機能の維持と改善に有効であることが報告されています。
認知症との関わりが指摘されているものは、運動不足に加えて、聴力や視力の低下、LDLコレステロール値が高いこと、糖尿病、高血圧、肥満、喫煙、過度の飲酒、社会的な孤立など、複数あります。気になることがある場合は、一人で判断せず、医療機関や専門職に相談しながら生活を見直しましょう。
こうした取り組みによって、認知症を確実に予防できたり、症状が必ず改善したりするわけではありません。無理なく続けられることを暮らしに取り入れ、人とのつながりを保つことが、認知症に備える選択肢の一つになります。
診断後の悩みも抱え込まないで
認知症と診断された後も、ご本人とご家族それぞれに悩みは続きます。ご本人は、「これから自分はどうなるのか」「病気が進んでいないか」といった不安を感じる人も少なくありません。
ご家族には、介護のこと、お金のこと、利用できる介護サービスや施設のことなど、さまざまな心配事が生じます。同じことを何度も尋ねる、怒りっぽくなる、やる気がなくなるといった変化に接して、「病気によるものなのか」「どのように対応すればよいのか」と戸惑うこともあります。こうした悩みは、「家族のことだから」と周囲に相談できないまま重なりやすく、ご本人とご家族の暮らしにも影響が出てきます。こうした状況で、必要な支援につながれず孤立してしまう時期は「空白の期間」と呼ばれています。
支援につながらない「空白の期間」
「空白の期間」は、診断後だけに生じるものではありません。診断を受ける前に、もの忘れなどの違和感があっても、医療機関を受診できない、専門職に相談できないといった時期も含まれます。認知症は外から分かりにくいため、周囲が変化に気付かないことがあります。「認知症になると何もできなくなる」といった見方が、ご本人を相談しにくくさせることもあります。ご家族も悩みを打ち明けられず、負担を抱えてしまう場合があります。
診断を受けることだけがゴールではありません。診断後も、ご本人とご家族が必要な支援につながり、これからの暮らしについて一緒に考えられる環境が大切です。
話せる場所、つながれる場所を持つ
悩みを一人で抱えないための場の一つが「認知症カフェ」です。認知症カフェは、認知症のある方、ご家族や介護者、友人、地域住民、専門職などが、年齢や所属にかかわらず立ち寄れる場所です(参加できる方の範囲は、運営団体によって異なります)。くつろいだ雰囲気の中で気軽に話をしたり、認知症に関する情報を得たりできます。
「ともカフェ」高齢者施設の利用者が店員を務める認知症カフェの様子
人とのつながりが、ご本人の日課や役割、活動の場が生まれるきっかけになります。ご家族にとっても、悩みを話し、必要な情報や支援につながるきっかけになります。
もの忘れへの心配は、相談してよい悩みです。チェック項目を通して気になる変化が見つかったときや、ご本人とご家族だけでは対応が難しいと感じたときは、「まだ大丈夫」「家族で何とかしなければ」と抱え込まず、医療機関や身近な専門職、地域の相談先につながることから始めてみてください。
社会福祉法人 京都悠仁福祉会
京都認知症総合センター クリニック 院長
京都大学 医学部 臨床教授/脳神経内科/医学博士
川崎 照晃
※本記事は、2026年9月26日(土)認知症ケアフォーラム2026にて行われた講演『認知症と共に歩むやさしい社会へ』〜認知症診療のトレンドと当事者参画の重要性について〜の内容をもとに構成しています。
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