大切な人との会話が少なくなる前に
2026.05.21
日本では、75歳以上の約65%が、実際には難聴と診断されています。一方で、自分自身で「聞こえに問題がある」と自覚している人は35%にとどまるとされています。
“聞こえにくさ”は、自分では気づきにくい。だからこそ、知らないうちに会話や外出の機会が減り、人とのつながりにも影響していくことがあります。
そうした聞こえの衰えによって、心身の活力低下につながる状態「ヒアリングフレイル」について、洛和会音羽病院の言語聴覚士・前川大史氏が解説します。
“耳”だけではなく、“脳”にも関わる聞こえ
人間は耳だけで音を聞いているわけではありません。
音が鳴ると、まず空気の振動が耳の穴(外耳道)を通って、一番奥にある「鼓膜」を震わせます。その振動が、さらに奥にある「有毛細胞(ゆうもうさいぼう)」という、名前の通り毛のような形をした非常に繊細な細胞に伝わります。この有毛細胞が、まるでピアノの鍵盤のように、音の高さや大きさを分析して、空気の振動を電気信号に変えてくれるんです。そしてその電気信号が、神経を通って脳に届けられ、私たちは初めて「音」として認識できるというわけです。
ではここで、実際に音を聞いて確認してみましょう。
たとえば、山科疏水に架かる安朱橋へ向かう道。ゆっくり流れる水音に重なるように、頭上から一斉にセミの声が降ってきます。
「ああ、京都の夏が来たなぁ」と感じる方も多いのではないでしょうか。
少し涼しくなった風の中、草むらからコオロギやスズムシの声が聞こえてきます。「秋が来たな」と感じる京都の人も多いかもしれません。
一方で、人によっては「うるさいな」と感じる人もいるでしょう。
では最後に、こちらはどうでしょうか。
日が落ち、遠くの田んぼや用水路から、幾重にも重なるカエルの声が聞こえてきます。どこか懐かしく、安心するような合唱に聞こえるかもしれません。
このように、同じ音でも、それを心地よいと感じるか、騒音と感じるかは、その人の経験や記憶、つまり「脳の解釈」による部分が大きいのです。
まずは、自身の“耳年齢”をチェックしてみましょう。
「年齢による変化」と「放置」は別の問題
音を感じ取るための小さな細胞「有毛細胞(ゆうもうさいぼう)」は、日々さまざまな音を聞き続ける中で、少しずつ傷つき、数が減っていきます。まるで、長年使った絨毯の毛がすり減っていくようなイメージです。そして、一度傷ついた有毛細胞は、残念ながら元に戻ることはありません。有毛細胞が減ると、脳へ送られる電気信号が弱くなったり、途切れたりすることで、「聞こえにくい」「言葉が聞き取りづらい」といった状態が起こります。これが、「加齢性難聴」の主な原因とされています。
加齢に伴い、高い音から徐々に聞き取りづらくなるのは、ある意味で自然な変化です。しかし、“年齢による変化だから仕方ない”と、聞こえにくさをそのままにしてしまうことは、また別の問題です。
“ヒアリングフレイル”とは何か
ヒアリングフレイルとは
耳が遠くなる(老人性難聴)だけではなく、意思疎通の難しさによって、暮らしの中に“障害”が生まれていく状態のことです。放置すると、人とのつながりや社会参加が減少し、心身の活力低下やフレイル、認知症など様々なリスクにつながる可能性があります。
耳の老化
現象
小さな音が聞こえにくくなる
行動
テレビの音量を上げる
社会性
人との交流や外出は楽しめる
ヒアリングフレイル
現象
騒音下での言葉の聞き分けが難しい
行動
会話が億劫になり適当に相槌をうつ、憶測で返事をする
社会性
引きこもりがちになり、社会やコミュニティから孤立
聞こえのチェックリスト
イラストを見て、ご自身の生活に当てはまるものを調べてみましょう。
2つ以上当てはまる人は、ヒアリングフレイルのリスクが隠れているかもしれません。耳鼻咽喉科を受診することが推奨されます。
難聴は“認知症予防”とも関係
認知症の予防可能なリスク因子の中で、最大のリスクは「難聴(8%)」であると報告されています。しかし、これは裏を返せば、“早く気づき、対策できる可能性がある”ということでもあります。聞こえにくさによって会話が減ると、人との交流や外出の機会も少なくなり、脳への刺激が減ってしまいます。
だからこそ、「会話を続けること」が大切だと、言語聴覚士の前川氏は話します。
家族や友人との何気ない会話、趣味の集まりや地域での交流。
そうした日々の積み重ねが、脳のネットワークを保つ“認知予備能”につながっていくのです。
認知予備能=脳のバックアップ容量
認知予備能とは、脳に多少の変化やダメージがあっても、別の神経ネットワークを使いながら機能を補う“脳のバックアップ力”のようなものです。
読書や趣味、人との会話、社会参加などを通して脳に刺激を与え続けることで、この認知予備能は高められると考えられています。
つまり、「人と話す」「誰かと笑う」「外に出る」といった日々の何気ない時間そのものが、“脳の貯金”になっていくのです。だからこそ、聞こえにくさを放置せず、会話を続けられる環境を整えることが、認知症予防の第一歩につながると考えられています。
今日からできる、耳を守る習慣
| 習慣・ポイント | 具体的な行動・内容 |
|---|---|
| 60-60ルール | イヤホンは音量60%以下、1日60分以内 |
| 騒音から耳を守る | パチンコ店や工事現場などの騒音環境では耳栓を活用 |
| 休養と嗜好品 | 禁煙・禁酒を心がけ十分な睡眠をとる |
| 持病の管理 | 高血圧・糖尿病を管理(内耳の血流を保つために重要) |
| 適度な運動 | 有酸素運動(ウォーキング1日20〜30分など)を取り入れる |
耳の変化に早く気づき、適切に向き合うことで、会話や人とのつながり、そして自分らしい毎日を守れる可能性があります。
これからも、好きな人と笑い合い、外に出かけ、日々を楽しみ続けるために。
まずは一度、ご自身の“聞こえ”に目を向けてみてはいかがでしょうか。
この初夏、 京都で見つける“健康につながる時間”
聞こえにくさは、人との会話や外出の減少につながることがあります。だからこそ、“自然に人とつながれる場所”を持つことは、心と体の健康にとって大切です。5・6月の京都では、歩く・集う・自然を感じる。そんな健康イベントが各地で開催されています。

5月30日(土)・31日(日)
嵐山東周辺の寺社などを巡る!まちあるきツアー
西京区には、歴史や文化を感じられる寺社が数多く点在しています。 嵐山東エリアを歩きながら、京都のまちの魅力に触れられるツアーです。


6月6日(土)
京都 別邸 ヨガ体験
旧三井家下鴨別邸で行われる、 歴史ある空間を活かしたヨガイベント。梅雨前は、 気温差や疲れで自律神経が乱れやすい時期。 “呼吸を整える時間”も、 日々の健康づくりにつながります。
#ヨガ #呼吸 #自律神経
洛和会音羽病院 リハビリテーション部
言語聴覚士
前川大史(まえかわ ひろふみ)
内容:らくわ健康教室ぷらす5月14日(木)開催「最近、聞き返しが増えていませんか?」~言語聴覚士が教える、ヒアリングフレイルへの気づき~」で扱われた内容を起点に、あらためて整理・構成しています。
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