歯を失うことが怖くない社会を目指す 京大発スタートアップ企業の挑戦
2026.06.24
「永久歯を失ったら、もう二度と生えてこない」――そんな歯の常識が今、覆されようとしています。京都大学発のベンチャー企業、トレジェムバイオファーマが開発を進めるのは、世界初の「歯が生える薬」。2030年の実用化を目指し、ついに治験のステージへと踏み出した同社CEOの喜早ほのか氏に、その驚きの仕組みと目指す未来について話を伺いました。
トレジェムバイオファーマ株式会社 CEO 喜早ほのか氏
きっかけは「歯の数が多いマウス」との出会い
―― まず初めに、トレジェムバイオファーマはどのような会社なのでしょうか?
喜早:歯の再生治療の研究をしています。取締役CTOである高橋克先生の研究成果をもとに歯の再生治療薬の研究開発を進める京都大学発スタートアップ企業です。創業時は3名しかいませんでしたが今は13人に増え、研究開発のスピードと熱量も上がっています。
―― 研究に参加したきっかけを教えてください
喜早:中学生の時に顎骨の疾患で入院手術した経験がきっかけで歯科医師の道を志しました。京都大学付属病院で歯科口腔外科研修医として研鑽に励み、2008年に京都大学大学院に進学し、髙橋先生の研究チームに加わりました。山科区の歯科医院で歯科医師として勤務しながら研究をしていましたが、会社化する際に取締役に選んでいただき今は研究と経営に注力しています。
―― 「歯が生える薬」とは一体どんな薬なのでしょうか
喜早:特定のタンパク質の働きを抑えることで、もともと備わっている歯の形成能力を呼び覚ます薬になります。歯の成長を阻害する物質の働きを薬で阻害し、眠っている歯胚を成長させるというものです。
共同創業者である高橋先生が、ある不思議なマウスに出会ったことから始まりました。通常のマウスよりも歯の数が多いマウスがいたんです。調べてみると、そのマウスは『USAG-1(USA1)』という特定のタンパク質が体内で作られない遺伝子構造を持っていました。
―― 治験も進んでいるのでしょうか
喜早:来月(2026年7月)から先天性無歯症の小児を対象に治験を開始する予定です。薬の投与から約8ヶ月で、レントゲンに写る程度の大きさにまで歯が育つかを確認し、その後は実際に生えてくるかを観察研究として継続的に見ていく計画です。2028年3月ごろに終了を見込んでいます。上手くいけばアメリカでの治験も視野に入れています。
「インプラントでも入れ歯でもない」第3の選択肢
―― 虫歯やケガなどで永久歯を失った人にも使えるのでしょうか?
喜早:生まれつき歯がない方だけでなく将来的に虫歯などで歯を失った大人のための「第3の歯」の再生を目指しています。具体的には、虫歯治療の際に神経を取って脆くなった歯の根元に薬を注入し、新しい歯が育つのを待つといった治療法を今は想定しています。 ただし、この治療には「顎の中に歯の芽が残っていること」が必須条件となります。 自分の顎に芽が残っているかはMRIで調べることができますが、人によっていつまで残っているかは個人差があります。実用化に向けていまは研究を進めている状況です。
歯を失うことが怖くない社会を目指して
Profile
喜早 ほのか
2008年京都大学大学院医学研究科博士課程に入学し、髙橋克准教授のもとで歯の再生治療研究に携わる。2014年京都大学博士(医学)取得。2020年5月トレジェムバイオファーマ株式会社設立。代表取締役に就任。
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